ジョヴァンニ・ピーコ・デッラ・ミランドラ(1463–94)は,ロレンツォ・デ・メディチ治下のフィレンツェ黄金期に,芸術と学知が交差する最盛期の文化の中で活動した人文主義者である。マルシリオ・フィチーノらのサークルに接し,ヘブライ語やアラビア語に及ぶ広範な学知を吸収した彼は,中世と近代の転換期にあって,哲学と神学を総合する哲学的平和を目指し,新たな人間観を探求した。
本書は,本邦初訳を含むピーコの主著四編の翻訳に,用語や参照文献に関する詳細な注釈を施し,巻末には付録と訳者解説を付した初の著作集である。
表題の『人間の尊厳についての演説』は,これまでルネサンス精神の象徴的テクストと見なされてきたが,人間は神に自由意志を与えられたが故に自己の在り方を決定しうる存在であり,学芸と哲学を通じて神的高みへ上昇しうると説く。後半では討論会への批判に反論し,多様な学派の総合を通じた真理探究の意義を主張する。『存在者と一者について』は,プラトンとアリストテレスの両哲学の協和を示す神学的・形而上学的考察である。『ヘプタプルス』は旧約聖書「創世記」の天地創造を解釈する注解書。伝統的聖書解釈とカバラ的手法を結合して,宇宙と人間の象徴的意味を解明する。『「愛の歌」注解』は,ベニヴィエーニの詩を注解しつつ,愛の本質を哲学的に分析する。最後に,20世紀に発見された『演説』の草稿を付録とする。
中世から近代へと至る思想のダイナミズムと魅力を浮かび上がらせるとともに,現代の人権思想の淵源としても大いに示唆を与えるルネサンス哲学の基礎文献である。
凡例
1 人間の尊厳についての演説
2 存在者と一者について――アンジェロ・ポリツィアーノに
3 ヘプタプルス
4 ジロラモ・ベニヴィエーニの「愛の歌」注解
付録
〈草稿〉 人間の尊厳についての演説
補注
解説 ピーコ・デッラ・ミランドラ――時代・生涯・著作・思想
引用・引照文献一覧
文献(テクスト,翻訳,研究書)
あとがき
索引