経済学はアダム・スミス『国富論』(1776年)に始まるとされ,今日までその考えが主流である。しかしそれ以前に17世紀以来の膨大な経済学の論説が存在した。マルクスはペティ(1623-87)を「経済学の祖」であり,「政治算術」は「経済学が独立した科学として分離した最初の形態」とし,その体系は『国富論』や自身の経済学の切っ掛けになったと語った。だがスミスはペティを一貫して無視した。
ペティは田舎町の織元に生まれたが,教育に恵まれず14歳で出奔する。彼は旺盛な知識欲によりヨーロッパ各地をめぐり,多くの知識人と知り合い,豊かな知識を吸収した。17世紀科学革命の時代に活躍した人々を通じて最先端の科学にふれ,自身もオランダに留学して解剖学を学んだ。彼は臨床医学,算術,幾何学,政治哲学,人口統計学,帰納法哲学などの知識を習得し,アカデミー会員にまでなった。
特にベーコンの帰納法哲学と,ホッブスの秘書として政治哲学を学び,それをもとに自然哲学者として経済科学の創生に着手,国家社会を肉体と見なし,「政治算術」という画期的な経済的分析手法を考案した。それらを駆使してペティは新しい学問領域の開拓に生涯を捧げた。
本書は6部構成で,第Ⅰ部はⅡ部以降の内容を俯瞰する総論である。Ⅱ部以降は主要作品を詳細に分析する。すなわち『W.P.によるサミュエル・ハートリブ氏への助言』「交易とその拡大についての解明」『租税貢納論』『賢者には一言をもって足る』『政治算術』の主要5作品が解明される。大著だが,著者は専門研究者だけでなく,経済や社会に関心がある一般読者にも伝えられるよう読みやすく工夫している。
凡例
序 重商主義期の経済論説――正の知的遺産
第Ⅰ部 ウィリアム・ペティと経済科学の曙――生涯・著作・時代背景・研究史
第Ⅱ部 初期ウィリアム・ペティの社会・経済構想
第Ⅲ部 初期ウィリアム・ペティの経済科学
第Ⅳ部 ウィリアム・ペティの租税国家論――『租税貢納論』の視界
第Ⅴ部 ウィリアム・ペティの政治算術――ベーコン主義の経済科学
第Ⅵ部 『政治算術』の経済科学
あとがき
文献目録
注
索引