本書は、データエンジニアが実務で関わる事柄を整理しつつ、データエンジニアの役割を俯瞰することを目的としています。
AI技術の発展により、職種を問わず1人が担う仕事の領域の境界が広がり曖昧になってきています。しかしデータエンジニアにとって、これは今に始まった話ではありません。扱う領域の広さと、その広範さが十分に理解されないまま業務を進める状況は、以前から変わらない現実です。役職だけを切り分けても実態には届かず、多くの現場では1人のデータエンジニアが複数の責務を抱え込み、組織の都合や役割の境界に生じた空白を埋めながら業務を進めています。
データエンジニアの仕事は、ツールや技術だけでは語れません。ステークホルダーとの調整、ドメイン理解、地道な検証作業、そして明示的に役割を割り当てられていない業務を引き受ける場面も少なくありません。データ基盤は往々にして直接的に収益を生まないコストセンターとして扱われ、人員は少なく、結果として1人に過剰な役割が集まります。効率や分業の論理だけでは説明しきれない状況の中で、属人的で、しかし必要不可欠な仕事として成り立っているのが一般的なデータエンジニアリングです。
従来の技術書は、個別ツールの解説や実装の詳細に軸足を置いたものが多くありましたが、今後はそうした役割をAIが担う場面が増えていきます。どのように動かすか、という問いに対しては、AIに質問すれば即座に答えが返ってくる時代になりました。それよりも今求められているのは、データエンジニアという存在の全体性を捉えるための見取り図だと考えています。本書がめざすのは、個別の技術知識よりも長く機能する視点と枠組みの提供です。
移り変わりの激しい領域だからこそ、書物が果たすべき役割は最新動向の追認ではありません。過去と現在を照合して共通項を抽出し、数年後にも機能する枠組みを示すこと。本書は広範な領域をできる限り平易に扱い、細部の仕様よりも長く有効な視点を提示することを意図して構成しました。