第九の波

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    思わず息を詰めていた。市民の健康より利権や金を優先する政治と大企業、監視し合う人々……2012年の事件を題材とする本作のきな臭い空気がいまの日本に重なる。深呼吸するためには、主人公のように自らもがかねばならない。
    ――小山田浩子(小説家)

    東海岸の町、陟州をご存知だろうか。石灰鉱山にまつわる謎の死、カルト宗教団、原子力発電所の誘致をめぐる対立などが混在し、欲望が渦巻く陟州を。驚くほど詳細なディテールで描かれた、いまにも手が届きそうなほど鮮明で、恐ろしいほどリアルな陟州を舞台に、この地で苦しい思春期を送った3人が再び舞い戻り、繰り広げられる憎しみと羨望のドラマがゆっくりと浮かび上がる。しかし、何といってもこの小説が読者の胸を熱くさせるのは、彼らのラブストーリーだ。こんなにのめり込んだ悲しい愛の大叙事詩は久しぶりだ。さすが『目連正伝』を書いたチェ・ウンミだが、これが初めての長編小説だとは。驚きだ。
    ――クォン・ヨソン(小説家・『春の宵』著者)


    この作品は、2012年、江原道にある町で実際に起こった事件をモチーフにしているが、ルポや告発小説とは異なる。ソン・イナ、ユン・テジン、ソ・サンファという主人公を通して、一見平和そうな田舎の小さな町の裏側を生々しく描く。そこには富の分配から疎外され、不条理な生活を強いられた人々がいる。著者のチェ・ウンミは、陟州を金と権力によって手中に収めようとする者たちが現れるのも、私たちの生きている社会に問題があるのではないかと問い続ける。
    作品の最後の方でソン・イナが、荒波が押し寄せては引いていく陟州の海岸をゆっくり歩いていくシーンがある。『第九の波』は、それでも私たちはこの社会で戦いながら生きていかなければならないという、チェ・ウンミ文学らしいテーマを垣間見せてくれる。
    『第九の波』というタイトルは、19世紀ロシアの海洋画家イヴァン・アイヴァゾフスキーの代表作から取っている。
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