まぼろしの枇杷の葉蔭で 祖母、葛原妙子の思い出

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    「幻視の女王」とも評された、戦後短歌史を代表する歌人、葛原妙子。彼女には家族にしか見せなかった別の姿があった──。チャーミングで愛おしい、「異形の歌人」の横顔。


    「おばあちゃんとのことについて、色々な人が色々なことを言っているだろう。あれはみんな違うんだよ」


    「あたりかまわず朱と咲きいでよ」と自らを鼓舞し、脇目もふらず作歌にいそしんだ歌人、葛原妙子。


    子どもの頃、大森の祖母の家に行く時には何か冒険に出かけるような気持ちになった。かつての病院の敷地内にあった、広い平屋住宅。周囲には枇杷の大樹が緑の葉をさかんに茂らせていた。

    孫である著者から見た葛原妙子とは──。戦後短歌史を代表する歌人と、その家族の群像がここにある。

    向田邦子、須賀敦子を髣髴とさせる、極上の名エッセイ集。


    【本文より】

    私は祖母のことを「おばあちゃん」と呼んではいたものの、祖母は世間一般で言う「おばあちゃん」らしさが感じられる人では全くなかった。夫にかしづき、家族を愛し、まめまめしく皆の世話をやいていた父方の祖母とあまりに違いすぎる。そのことに戸惑いを覚えつつも、ある種の諦めの気持ちがあった。

       ***

    「おばあちゃんはカジンだから……」
    周囲の大人たちがしばしば口にする「カジン」という音に、「歌人」という漢字があてはまることを知ったのはだいぶ後になってからだった。「カジン」にせよ「歌人」にせよ、同年代の子供たちが親しまないこれらの言葉は、大人たちから与えられた玩具のように、幼い私の傍らにいつもあった。
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