周防大島の生活誌と宮本常一の家族にふれたエセイを収録した「宮本常一ふるさと選書」第1期5冊のうち3冊目。この巻に収録した三篇のテクストにまず通底するのは、子供の世間(しょけん)を通じた共同体論である。
宮本が「子供の世界」を書き上げて11日後、国民主権、基本的人権の尊重、平和主義を三原則とする日本国憲法公布(1946年11月3日公布、翌47年5月3日施行)。宮本は記した。「我々は戦を捨てた」(「萩の花」)と。
「子供の世界」と「萩の花」、これら二つのテクストに通底するのは、総力戦敗亡の虚無から立ち上がる、新生日本への希望と自身に課した責任だ。戦後大島に帰って百姓になると決めたはずの宮本が、請われるままに農村調査、民俗調査の旅を再開してしまったのも、農山漁村の実状に精通した研究家であり実践家としての責任感の故であろう。宮本が希望を寄せた新生日本のいまをおもわずにはいられない。
核に汚染され、気候崩壊が進むこの地球上で絶望の未来を生きぬくほかない子供たちの困難をおもうからこそ、絶望の過程である災厄の夏に宮本のこの一冊を編み、次代に遺す。