京都府福知山市の小さな動物園「福知山市動物園」――。
朝の園内は、まだ人の波ができる前の、静かな時間でした。
開園を待つ門の向こうに、ちらほらと家族連れの姿が見えます。
園路には昨夜の露がうっすら残り、踏みしめると、砂利が小さくキュキュと鳴る。
鳥舎から聞こえる羽音と、遠くで鳴くフラミンゴの声。
その一つひとつが、今日も一日が始まることを知らせています。
「ほな、行こか」
柵越しに、私がそう声をかけると、子ザルのみわちゃんがこちらを振り向きました。
その目は、ただ音に反応したというよりも、「何か始まるぞ!」と分かっているような表情でした。
「散歩!」
その言葉を発した瞬間、みわちゃんの体が弾みます。
みわちゃんは、地面を蹴るように走り出し、迷いなくイノシシの子どものウリ坊のそばへ寄ったのです。そして、ひらりとウリ坊の背中に飛び乗ります。
それがあまりに自然で、何度も繰り返してきた動きのように見えます。
二匹が出会ってまだ一週間ほどです。
それでも、ずっと前から一緒にいたような息の合った動きでした。
午前中のただの散歩です。この二匹が、やがて町を越え、テレビや新聞に取り上げられ、日本中の人の心をあたためる存在になるとは――。
その時は、まだ誰も知らなかったのです。
「プロローグ」より