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お伽噺「桃太郎」はなぜ生まれたのか

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なぜ桃から生まれたのか。
なぜ川上から流れてきたのか。
なぜ犬・猿・雉がお供したのか。

知れば知るほどおもしろい 桃太郎研究の新展開。
検証の果てに見えてきた「日本昔話のふるさと」とは――。

日本神話や中世の御伽草子を元にしたと考えられることの多い「桃太郎」の物語だが、現在の形になったのは意外にも江戸時代の前半だ。誰もが知る「ももたろう」のお話はどのようにして生まれたのか、その起源に迫る。

本書「はじめに ―川上から桃の実が流れてきて―」より
歌人の正岡子規が明治三十一年に桃太郎に関する連作短歌を作っています。その最初は

 大いなる 桃の實流れ 來しといふ 昔ばなしの 春の川水

子規らしいのどかな詠調です。桃太郎は子供の頃から読書が大好きであった少年正岡昇(子規)も読んだ童話です。この短歌にはそんな懐旧の情が込められています。
これから日本昔話の代表であり、誰もが知っている「桃太郎」について書いてみたいと思います。幼児子ども向けの童話の一番目です。研究史を少し調べてみれば、江戸時代の後期以降には桃太郎に関する数多くの考察も存在していました。
いつの時代の研究者も「なぜ川上から流れてきた桃の中から生まれたのだろう? 桃太郎にモデルがいるのだろうか? 古代の日本神話がもとだとされるけど本当か? 岡山県に関係あるとかいうから岡山県民? 鬼の正体とは何だろう? なぜきび団子と引き換えに犬・猿・雉がお供になったのだろう? 鬼ヶ島はどこにあったの?」などなど短いのに不思議に思うことがいっぱいです。また江戸時代、十八世紀の初め頃には成立していた「桃太郎の基本的なお話」に刺激を受けてさまざまな物語が作られました。二次創作です。桃太郎の前日譚や後日譚(譚とはお話という意味です)、浄瑠璃や戯作本(小説)や芝居などが作られています。さらに近・現代には桃太郎にまつわる伝承地や史跡が日本のあちこちに整備されて来ました。このように日本人と日本文化に多大な影響を与えたほどに「短いけれども、きわめて魅力的なお話」です。

本書は「桃太郎のモデルは天竺へ仏典を取りに行った三蔵法師玄奘ではないか」というわたしの小さなアイデアからはじまったものです。
その論証の過程は、山東京伝や曲亭馬琴や柳田國男や石田英一郎や滑川通夫や中野美代子のような先達・大先生方の考察の跡をたどったうえで、それを乗り越えようとするものでしたから、その意味では砂嵐のタクラマカン砂漠をわたり、雪のヒマラヤ山脈を越え、さらには妖怪変化どもと戦いながら(?)、という三蔵法師玄奘の天竺への旅にも似ていたかも知れません。
目次
はじめに ―川上から桃の実が流れてきて―

第一章 冒険の物語が始まる
 一、旅の始まり
 二、柳田國男と曲亭馬琴の桃太郎論争  
第二章 川上から赤ん坊が流れてくる
 一、中国の桃の文化史 ―西王母の桃と西遊記―
 二、川を流れてきた赤ん坊
 三、マンゴーが川上からどんぶらこ
 四、 十七世紀後半の海外文化
第三章 浦島太郎と桃太郎
 一、浦島太郎の研究
 二、鬼の正体
 三、宝物とは何か?  ―打出の小槌考―
 四、日本一の桃太郎 ―黍団子の謎―
 五、どんぶらこ考
 六、旅の仲間
第四章 展開する桃太郎のイメージ
 一、岡山県と桃太郎
 二、江戸時代のパロディ本を読んでみる
 三、巌谷小波の「桃太郎」 ―明治を迎えて―
 四、日本児童文学の歴史
 五、お爺さんはなぜ「山へ柴刈り」に?
 六、松下竜一の「絵本」
第五章 日本昔話の生成
 一、桃太郎の成り立ち
 二、旅の終わりに ―真理への旅はまだまだ続く―
第六章 桃太郎の作者はいったい誰なのか?
 一、桃太郎の作者は江島其磧か
 二、日本昔話のふるさと

あとがき ―本を読む人―
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