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寿司一貫

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商品説明
『寿司一貫―江戸前が語る日本の記録』(八幡鮨四代目・安井弘著)は、早稲田・戸塚の地に百五十年近く続く老舗「八幡鮨」の四代目が、自身の歩みを通して“江戸前寿司”と“町の記憶”を綴った一代記である。著者は昭和九年生まれ。戦前・戦中・戦後を生き抜き、握り寿司とともに歩んできた九十余年の人生を、豊富な記憶と職人の語り口で描き出す。

序章では、つけ場の匂いや賑やかな家族の日常、早稲田通りの賑わいなど、すし屋の子として育った原風景が温かく語られる。第一章では、江戸前寿司の成立と進化をたどり、鮪が「下魚」から主役に変わった過程や、氷や冷蔵庫の普及が寿司の文化を変えたことを解説。市場と職人の関係、築地の活気や符丁の世界など、すし屋を支える見えない技と知恵が生き生きと描かれる。

中盤の章では、早稲田・戸塚という町とすし屋の密接な関係、戦時下の統制や空襲、疎開生活の記憶が綴られる。草津での疎開生活や家族との絆、飢えと規律のなかでの子どもたちの姿など、庶民の生活史としても貴重である。終戦後は、焼け跡の東京での再出発、進駐軍との出会い、復興の熱気が描かれ、寿司が再び町に息を吹き返す様子が胸を打つ。

後半では、戦後復興とともに寿司職人として歩んだ日々が中心となる。統制下の「委託加工」や、庶民の味として生まれた「かっぱ巻」の誕生秘話、修業と職人仲間との絆などが語られ、寿司を通じた人間模様が浮かび上がる。やがて著者は、四代目として暖簾を守り抜き、町とともに寿司文化を育ててきた自負を語る。

終章では、コロナ禍の苦境や家族のバトン、早稲田の学生との交流、商店街の変容、野球や応援歌「紺碧の空」とのつながりなど、現代の町と寿司屋の関係が描かれる。寿司が単なる料理ではなく、人と人、町と時代を結ぶ文化そのものであることを静かに伝える。

本書は、一人の職人の記録であると同時に、明治から令和に至る“日本の食と町の記録”である。寿司という一貫を通じて、時代の光と影、庶民のたくましさ、そして文化の継承を見つめ直す、温かくも深いドキュメントである。
目次
序章 すし屋に生まれて
 ──つけ場の匂いと町に育まれた原風景
 賑やかな家族とすし屋の日常
 早稲田通りの賑わいと文化人の影
 昭和の子ども遊びと戦時下の学校生活
 九十歳を迎えて、いま思うこと

第一章 江戸前寿司と築地の世界
 ──市場と職人が織りなす舞台
 江戸前寿司の誕生と進化
 鮪が「下魚」から主役になるまで
 氷と冷蔵庫が変えた寿司の歴史
 正座で握った、職人たちの時代
 築地市場の喧噪と符丁の声
 「さばをよむ」「まかった」に込められた知恵
 仲買人とすし屋──仕入れの駆け引き

第二章 町とすし屋の文化誌
 ──早稲田・戸塚と歩んだ時代
 戸塚・早稲田とともに歩んで
 神田川と暮らしの風景
 関東大震災を乗り越えて
 文化人が集った一角
 グランド坂に息づく人と物語
 地下鉄と駅が変えた町の姿
 移りゆく水稲荷神社
 すし屋から見た町の移ろい
 学生街とすし屋の記憶

第三章 戦中のすし屋と焼け跡の記憶
 ──のれんを守り抜いた日々
 病院と空襲の記憶
 統制下のシャリ──戦時ちらしと予科練の面影
 空襲と焼け跡の記憶

第四章 疎開先での食と団らん
 ──草津で学んだ暮らしと絆
 東条夫人の視察と味噌汁の記憶
 父の来訪と白根山登山
 正月の銀シャリとごちそうの記憶
 草津の寒さと夜の団らん
 母ののり巻と心の支え
 スキーでの大怪我
 遅い春──小鳥・蕨・白樺

第五章 軍靴の影と子どもたち
 ──疎開生活に重なる戦争の足音
 卒業と海軍傷病兵の入町
 ラッパと歌声に包まれた寮の日々
 小鳥の声と朝の鍛錬
 B29の影と東京空襲の不安

第六章 飢えと規律のほころび
 ──子どもたちが見た戦時の現実
 体位測定とシラミとの戦い
 勤労奉仕──薪運びからレンガ運びへ
 家に帰りたい──女子の家出未遂
 T先生の出征と担任不在の日々
 食べたい一心──味噌、すいとん、おにぎり
 伝わる戦況──東京大空襲・長岡空襲の報
 将官視察と避難訓練

第七章 帰郷と焼け跡の東京
 ──失われた町と再会の記憶
 帰郷の波──私も東京へ
 焼け跡の東京へ帰郷
 病院と空襲の記憶
 我が家の無事、夏の東京で
 プールの日々と友の悲報

第八章 終戦と復興の始まり
 ──平和の実感と新しい時代へ
 宣伝ビラ、原爆と終戦前夜
 玉音放送と復員
 疎開児の帰還とT先生の復員・廊下教室
 進駐軍を見る──ジープの衝撃と階級文化の違い
 皇居前のチョコレートと幼馴染のその後
 戦後の音楽と野球の復活
 疎開の完了と「戦争を恨む」
 「リンゴの唄」と復興の始まり
 占領下の教室と台所──GHQの検閲と先生たちの戦中の味
 復興の屋台骨──祭り、欠食、そして町が腹を支えた
 江戸前の再出発──すし屋再開と安部磯雄の記憶
 戦後復興の町とすし屋の商い
 草軽電鉄跡をたどって
 いまの草津で感じる平和と友への想い

第九章 寿司の再出発と職人の歩み
 ──戦後を生き抜く技と心
 委託加工──米とすし屋の再会
 かっぱ巻の誕生秘話
 道具と修業の日々
 兄弟子、仲間からの学び
 四代目としての責任

終章 現代へのまなざし
 ──寿司と町とともに歩む未来へ
 コロナ禍の夏、八幡鮨の試練と家族のバトン
 学生と町を結ぶ情──下宿の勘定と人情
 商店街の変容と町の挑戦──早稲田“食と場”の現在地
 球場とすし桶──早稲田野球と八幡鮨の絆
 「紺碧の空」が生まれた町──応援歌とすし屋の記憶
 メジャーリーグの初来日と日本初の始球式
 応援と握りの往復書簡──町が育てた早稲田魂
 商店街をめぐるすし屋のまなざし
 海外で出合った寿司──箸がつなぐ世界
 戦前のすしネタ──ばか貝の思い出
 戦前から戦後──時代の変遷を思う
 八幡鮨五代目、そして六代目へ
 一番の常連・大沢慶己さんのこと
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