2006年に65歳で逝去した井田照一は、いち早く1960年代からリトグラフによる制作を始め、若くして数多くの国際版画展で受賞を重ねて一躍スター作家となりました。その後はシルクスクリーンによるポップなインスタレーションなどが話題を呼び、70年代半ばからは「Surface is the Between ‒ Between Vertical and Horizon」(表面はあいだである‐垂直と水平の)という独自の版画思考により、現代版画の新たな表現を切り拓いていきます。
さらに井田はこの版画の思考を核にして、その後「ペーパーワーク」や「セラミックワーク」「ブロンズ」など、さまざまなジャンルへの仕事に手を広げ、それらを「Garden Project」(作庭計画)と名付け、領域横断的なコンセプチュアル・アートを発表します。そうした制作へと舵を切ったのはなぜなのか。そこには「版画の思考」から現代アートの核心へといくつもの「謎」が隠されていました。
本特集では、没後20年の節目に、井田照一の「版画の思考」を柱とした版画作品の変遷と、その後の現代アートへの展開をたどり、井田の制作と作品にみられる「10の謎」の解明を試みています。