「日本で働いて朝鮮にもどってきたら官職につくことができる」と村のえらい人にだまされて朝鮮から山口県の長生(ちょうせい)炭鉱に引っぱられてきた少年カンジェ。この炭坑は海底にあり、水もれがひどく、坑道の奥の危険で過酷な採掘現場ほど朝鮮人が多く働かされていた。
朝鮮人労働者は食べ物も少ししか与えられず、狭い部屋に大ぜいで押しこめられ、一日中監視される。いつも見張りから怒鳴られ、「きたない朝鮮人め」とムチでたたかれる毎日。カンジェは坑内のよごれた水を飲んでコレラにかかるが、死んだと判断されて焼き場へ運ばれる寸前に、親友チョンソクのおかげで息をふき返し奇跡的に生還を果たす。
国は戦争遂行のための国策として石炭の増産を命じ、そのために長生炭鉱でもさらに厳しいノルマが課され、無茶で危険な労働が強いられるようになっていった。カンジェは捕まって殺されることも覚悟でチョンソクと逃亡を企てるが、失敗。チョンソクは行方知れずになり、自身は半殺しのリンチを受ける。
その後再び仕事に復帰させられるが、安全を無視して掘り続けられた炭鉱はついに天井が崩壊し、180名以上の労働者を坑内に閉じ込めたまま、海底に水没してしまう…。
たまたまこの事故の時に坑内にいなかったカンジェは、その日のうちに二度目の逃亡をはかり、今度は成功。そして製鉄所で働くことになる。しかしここでも朝鮮人への差別と虐待は変わらなかった。
カンジェは行方知れずの親友チョンソクを探すが、なかなか見つからない。そんな時、親切な日本人の山田との出会いで道が開け、チョンソクが長崎の造船所にいることがわかる。しかしアメリカが長崎に落とした原爆は、チョンソクのいた造船所にもはかりしれない被害を与えていた――。
作家は「わたしはこの物語を通して、国を失い、無念にも引っぱっていかれ、みじめに生を終えた数万の徴用者たちの魂をなぐさめ、さらに一歩進んで戦争の惨状を告発したかった。祖国へ帰れず、見知らぬ土地をさまよう多くの魂を、少しでもなぐさめてあげたかった」と書く(作者あとがきより)。本作は、長生炭鉱の生存者の一人、金景鳳(キム ギョンボン)氏の実話を基に創作された、胸をうつ鎮魂の物語。
巻末に井上洋子氏(長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会 代表理事)、布施祐仁氏(ジャーナリスト)の解説を付す。