臨床家のための高次脳機能のみかた
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    (序文より抜粋)
    高次脳機能に関わっているのは大脳の連合野と辺縁系,すなわち大脳の皮質の大部分と,間脳と中脳の一部です.ヒトでは中脳.間脳.大脳が中枢神経系の85%を占めているので,中枢神経系の大半が高次脳機能に関わっています.従って神経疾患では高頻度に高次脳機能が冒されます.
    臨床家においては一般に認知機能の評価は難しいものとしてとかく敬遠されてきました.しかし脳血管障害や神経変性疾患の診療の上で,神経学的評価とならんで,認知機能を適切に評価していくことは,診断ばかりではなく,治療,リハビリテーション,介護の点においても必須なものです.
    特に認知症の診療において認知障害の評価は中核であり,症候学の中心でもあり,これを欠くわけにはいかないのです.

    これまでにも多くの良質の神経心理学の教科書が存在していましたが,ほとんどが専門的,あるいは理論的で,臨床家に薦められるものは多くありませんでした.脳損傷は局所性脳損傷とびまん性脳損傷あるいは多巣性脳損傷に大きく分けることができます.脳血管障害は前者の代表的原因で,言語のような単一の認知ドメインの障害,すなわち失語症をもたらし,アルツハイマー病のような神経変性疾患は後者の代表的原因で,2つ以上の認知ドメインの障害,すなわち認知症をもたらします.
    これまでの神経心理学の教科書は局所損傷による単一の認知ドメインについての記述がほとんどで,認知症に多くの紙面を割いたものはほとんどありませんでした.一方,認知症の教科書も増えていますが,局所症候から説いて認知障害の評価を述べるものはありませんでした.認知症,すなわち2つ以上の認知ドメインの障害を理解するためには,それよりも簡単な単一ドメインの障害から始めないと,難しいものがさらに難しくなるのです.
    そのような時に出会ったのが, Hodges先生の著したこの入門書です.この本では局所損傷による症候と神経変性疾患による認知症の両方が実にうまく解説されています.

    私は研究室に所属している学生たちにこの本で勉強をするように薦めていました.Hodges先生については,かつて私の部下であった池田学先生(現・熊本大学教授)の留学先でもあり,前頭側頭型認知症や一過性全健忘などに関する多くの論文でもかつてから存じ上げていました.
    たまたま機会があってHodges先生を私たちの研究室にセミナーなどのためにお招きすることになりました.そのときに印象に残ったのは,認知障害に対する考え方や診察法が私のそれらと非常に近いということでした.たぶん彼我の進んできた道程が似通っていたからでしょう.その後に,大学院学生や博士研究員の中からこの本を翻訳したい,できればまとめて出版したい,ついては監訳をしてほしいという声があがりました.
    そこで私はHodges先生に連絡をとり,さらに新興医学出版社に出版を依頼したというわけです.このような経緯を説明するのは,この訳書の出版が出版社からの依頼ではなく,私からの発案でもなく,初学者から起こったということを強調しておきたいからです.
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