名曲がちりばめられた、56の楽章からなる音楽小説。 語り部ラフィク・シャミも愛する作家セシェ、『囀(さえず)る魚』に続く第3弾は音楽小説。砂漠をさまよい、瀕死の状態でマスクラン村にたどりついた男、セリム。イブラヒム翁の介抱で目を覚ました彼は少しずつ身の上を語り始める。森で聴いたヴァイオリンの音色に心魅かれ、アリフ老人に夢中で手ほどきを受けた少年時代、美しい娘ミリアムとの初恋。そんな日々をよそに、楽園のようだった島国シラケシュはいつしか全体主義の国へと変貌し、独裁政権によって人々は抑圧されていく。恋人は反政府活動をしていた祖父と亡命を余儀なくされ、恩師は自身の演奏によって命を奪われる。放浪しながら己の道を模索するセリムの演奏には、少しずつ変化があらわれていた。十七年のときをへて、ついに自分の魂をぶつけるにふさわしいサン=サーンスの名曲を見出したセリムに、命を賭した演奏の晩が訪れる。サラサーテの『ツィゴイネルワイゼン』や、パガニーニのソナタ、サン=サーンスの『死の舞踏』などの名曲がちりばめられた、56の楽章からなる音楽小説。