- 発売日:2026/06/12
- 出版社:並木書房
- ISBN:9784890634743
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総力戦研究所と海軍第一委員会
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商品説明
なぜ日本は開戦前に敗北を予測し得るだけの情報と分析力を持ちながら、それでもなお戦争へと進んだのか。本書が明らかにしようとするのは、この一点に尽きる。そしてその鍵は、単なる「誤った判断」や「楽観的錯誤」に求められるべきものではない。むしろ、分析と政策決定が分離し、前提条件そのものが固定化されていくなかで、「開戦を前提とした思考」が自らを正当化していった構造にこそ求められるべきものであろう。本書では、「総力戦研究所」と海軍「第一委員会」という二つの対照的な存在を手がかりにして、この問題の核心に迫っていきたいと考えている。
本書の契機となったのは、2025年8月16・17日に放映されたNHKスペシャル終戦80年ドラマ『シミュレーション~昭和16年夏の敗戦~』(前・後編)であった。
同ドラマは、「総力戦研究所」の机上演習を題材に、開戦前に敗北を予測していた事実を描き出した点で大きな反響を呼んだ。しかしながらその後、同研究所初代所長であった飯村穣陸軍中将の遺族によって、番組における人物描写が事実と著しく異なるとして提訴がなされるに至った。報道によれば、劇中において所長が開戦を肯定し、反対意見を抑圧する人物として描かれていたことが、故人の名誉を毀損するものであると主張されたのである。
同番組は、追加シーンを加えた劇場版として2026年8月に映画化されることが報じられ、製作側は「歴史的事実を基にしたフィクション」であるとの立場を示した。しかしながら、現代史、とりわけ当事者の記憶や評価がなお生々しく残る領域を扱う場合においては、たとえフィクションの形式をとるとしても、歴史的事実との乖離については最大限の慎重さが求められるべきであろう。
戦後80年を経て、当時を直接知る証言者が少なくなり、映像作品においてドラマ的再現の比重が高まっていることは理解できる。しかしそれゆえにこそ、歴史を扱う側には、事実の検証に耐えうる客観性と節度が不可欠である。歴史は単なる素材ではなく、未来の判断に資する公共的な知であるからである。
本書が試みたのは、こうした問題意識のもとに、「総力戦研究所」の実像を検証するとともに、それとは異なる次元で進行していた海軍「第一委員会」の議論に光を当てることであった。すなわち、日本が敗北の可能性を認識しながらも、なぜ開戦へと踏み切ったのかという問いに対し、「分析」と「意思決定」の分離という構造から接近することである。
「総力戦研究所」の若き研究者たちは、戦後、それぞれの分野において日本の復興と発展に寄与した。その意味において、同研究所の精神は戦後日本の基盤の一部をなしているといえる。本書を通じて、その実像がより正確に理解されるとともに、太平洋戦争の原因について改めて考える契機となれば幸いである。
本書の契機となったのは、2025年8月16・17日に放映されたNHKスペシャル終戦80年ドラマ『シミュレーション~昭和16年夏の敗戦~』(前・後編)であった。
同ドラマは、「総力戦研究所」の机上演習を題材に、開戦前に敗北を予測していた事実を描き出した点で大きな反響を呼んだ。しかしながらその後、同研究所初代所長であった飯村穣陸軍中将の遺族によって、番組における人物描写が事実と著しく異なるとして提訴がなされるに至った。報道によれば、劇中において所長が開戦を肯定し、反対意見を抑圧する人物として描かれていたことが、故人の名誉を毀損するものであると主張されたのである。
同番組は、追加シーンを加えた劇場版として2026年8月に映画化されることが報じられ、製作側は「歴史的事実を基にしたフィクション」であるとの立場を示した。しかしながら、現代史、とりわけ当事者の記憶や評価がなお生々しく残る領域を扱う場合においては、たとえフィクションの形式をとるとしても、歴史的事実との乖離については最大限の慎重さが求められるべきであろう。
戦後80年を経て、当時を直接知る証言者が少なくなり、映像作品においてドラマ的再現の比重が高まっていることは理解できる。しかしそれゆえにこそ、歴史を扱う側には、事実の検証に耐えうる客観性と節度が不可欠である。歴史は単なる素材ではなく、未来の判断に資する公共的な知であるからである。
本書が試みたのは、こうした問題意識のもとに、「総力戦研究所」の実像を検証するとともに、それとは異なる次元で進行していた海軍「第一委員会」の議論に光を当てることであった。すなわち、日本が敗北の可能性を認識しながらも、なぜ開戦へと踏み切ったのかという問いに対し、「分析」と「意思決定」の分離という構造から接近することである。
「総力戦研究所」の若き研究者たちは、戦後、それぞれの分野において日本の復興と発展に寄与した。その意味において、同研究所の精神は戦後日本の基盤の一部をなしているといえる。本書を通じて、その実像がより正確に理解されるとともに、太平洋戦争の原因について改めて考える契機となれば幸いである。
目次
はじめに──『NHKスペシャル』が投じた波紋 1
再現された「敗戦の予測」1
史実とフィクションの境界をめぐって 3
本書の問題意識と出発点 5
第1章 〝総力戦〟思想の萌芽 19
第一次世界大戦がもたらした「武力戦から総力戦へ」の転換 19
第一次世界大戦後の国際情勢と日本の対外政策 22
第2章 満洲事変と総力戦体制の研究 26
柳条湖事件から政党政治の終焉へ 26
欧州駐在官たちが持ち帰った「国防大学」構想 32
永田鉄山が描いた「国家総動員」の青写真 37
『陸軍パンフレット』が提唱した「国家総動員体制」41
「国防方針」の変遷 43
陸海軍の軍備構想の分裂 46
「海軍政策及制度研究調査委員会」の設置 51
第3章 外交の連鎖的失敗──ノモンハン事件から三国同盟へ 61
ノモンハンでの完敗が示した近代戦の現実 61
日独伊三国軍事同盟の締結 65
日ソ中立条約の締結 71
行き詰まる日米交渉 74
第4章 海軍「第一委員会」と主戦論の台頭 79
海軍「第一委員会」の中核にいた石川信吾 79
海軍「第一委員会報告書」87
海軍内の〝不戦派〟の沈黙 90
海軍「第一委員会報告書」と「主戦論」の確立 97
山本五十六の苦悩──「対蘭図上演習」99
第5章 大艦巨砲主義の幻影──抹殺された警告 103
海軍軍縮条約下の新軍備計画 103
井上成美『新軍備計画論』の評価 114
日独伊三国軍事同盟と海軍 120
石油の枯渇への危機感と開戦時機の決定 132
第6章 総力戦研究所の創設 136
研究所の目的と文武混合エリートの選抜 136
初代所長・飯村穣の統率力と教育方針 147
岡新海軍少将が説いた冷徹な現状分析 157
海軍軍政当局と総力戦研究所 162
第7章 第一回机上演習──「日本必敗」の理論的帰結 169
〝バーチャル内閣〟の組織とシミュレーションの想定 169
的中した未来への危惧と「不都合な真実」177
「臥薪嘗胆」の棄却──「帝国国策遂行要項」の決定 181
第8章 陸海軍の錯誤──データ軽視と精神主義の敗北 196
執行権なき研究機関の限界と参謀本部の楽観論 196
総力戦研究所の遺産 207
最終章 「敗戦の予測」はなぜ活かされなかったのか 215
──総力戦研究所と海軍「第一委員会」の比較から
「敗戦を予測した組織」としての総力戦研究所の神話 215
「総力戦研究所」の性格と限界 216
海軍「第一委員会」という「意思決定の中枢」218
共通点──「敗北の可能性」は共有されていた 219
相違点──「分析」と「意思決定」の断絶 219
なぜ「総力戦研究所」は過大評価されるのか 220
結論──問題は「情報」ではなく「意思決定」であった 221
おわりに──歴史の客観性と意思決定の構造 223
総力戦研究所/海軍「第一委員会」関連年表 13
【資料1】総力戦研究所職員名簿 227
【資料2‐1】昭和一六年度(第一期)研究生(昭和一六年四月一日~一八年三月二日)229
【資料2‐2】昭和一七年度(第二期)研究生(昭和一七年四月一日~一八年三月三日)231
【資料2‐3】昭和一八年度(第三期)研究生(昭和一八年四月一日~一八年一二月一五日)233
主要参考文献 236
再現された「敗戦の予測」1
史実とフィクションの境界をめぐって 3
本書の問題意識と出発点 5
第1章 〝総力戦〟思想の萌芽 19
第一次世界大戦がもたらした「武力戦から総力戦へ」の転換 19
第一次世界大戦後の国際情勢と日本の対外政策 22
第2章 満洲事変と総力戦体制の研究 26
柳条湖事件から政党政治の終焉へ 26
欧州駐在官たちが持ち帰った「国防大学」構想 32
永田鉄山が描いた「国家総動員」の青写真 37
『陸軍パンフレット』が提唱した「国家総動員体制」41
「国防方針」の変遷 43
陸海軍の軍備構想の分裂 46
「海軍政策及制度研究調査委員会」の設置 51
第3章 外交の連鎖的失敗──ノモンハン事件から三国同盟へ 61
ノモンハンでの完敗が示した近代戦の現実 61
日独伊三国軍事同盟の締結 65
日ソ中立条約の締結 71
行き詰まる日米交渉 74
第4章 海軍「第一委員会」と主戦論の台頭 79
海軍「第一委員会」の中核にいた石川信吾 79
海軍「第一委員会報告書」87
海軍内の〝不戦派〟の沈黙 90
海軍「第一委員会報告書」と「主戦論」の確立 97
山本五十六の苦悩──「対蘭図上演習」99
第5章 大艦巨砲主義の幻影──抹殺された警告 103
海軍軍縮条約下の新軍備計画 103
井上成美『新軍備計画論』の評価 114
日独伊三国軍事同盟と海軍 120
石油の枯渇への危機感と開戦時機の決定 132
第6章 総力戦研究所の創設 136
研究所の目的と文武混合エリートの選抜 136
初代所長・飯村穣の統率力と教育方針 147
岡新海軍少将が説いた冷徹な現状分析 157
海軍軍政当局と総力戦研究所 162
第7章 第一回机上演習──「日本必敗」の理論的帰結 169
〝バーチャル内閣〟の組織とシミュレーションの想定 169
的中した未来への危惧と「不都合な真実」177
「臥薪嘗胆」の棄却──「帝国国策遂行要項」の決定 181
第8章 陸海軍の錯誤──データ軽視と精神主義の敗北 196
執行権なき研究機関の限界と参謀本部の楽観論 196
総力戦研究所の遺産 207
最終章 「敗戦の予測」はなぜ活かされなかったのか 215
──総力戦研究所と海軍「第一委員会」の比較から
「敗戦を予測した組織」としての総力戦研究所の神話 215
「総力戦研究所」の性格と限界 216
海軍「第一委員会」という「意思決定の中枢」218
共通点──「敗北の可能性」は共有されていた 219
相違点──「分析」と「意思決定」の断絶 219
なぜ「総力戦研究所」は過大評価されるのか 220
結論──問題は「情報」ではなく「意思決定」であった 221
おわりに──歴史の客観性と意思決定の構造 223
総力戦研究所/海軍「第一委員会」関連年表 13
【資料1】総力戦研究所職員名簿 227
【資料2‐1】昭和一六年度(第一期)研究生(昭和一六年四月一日~一八年三月二日)229
【資料2‐2】昭和一七年度(第二期)研究生(昭和一七年四月一日~一八年三月三日)231
【資料2‐3】昭和一八年度(第三期)研究生(昭和一八年四月一日~一八年一二月一五日)233
主要参考文献 236
総力戦研究所と海軍第一委員会
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