《ヨーロッパの惨禍(カタストロフィ)/ドイツの悪夢(トラウマ)》として悪名高い三十年戦争の戦火がいまだくすぶりつづける17世紀ドイツの焦土に、深いかなしみと透徹した諷刺精神をたたえて、颯爽と登場した傑作ピカレスク・ロマンの全訳。ドイツ人の《魂のふるさと》としていまなお読みつがれるバロック時代を代表する雄編を、方言などそのままに、著者の息づかいが色濃く残る初版本から新たに訳し起こす。《諷刺》を象徴するアイコンとしてあまりにも有名な扉絵銅版画をはじめとして、17世紀刊行の諸本を彩った挿図を網羅的に収録し、訳註や付録資料も充実の《決定版》。主人公《ジンプリチシムス=阿呆》とともに、果てしなき17世紀彷徨の旅へ!
《ジンプリチシムス(Simplicissimus)とは、「シンプレクス」(simplex)というラテン語の形容詞(英語で言えば「シンプル」)の最上級の形を使って、それを主人公の名前にあてたものである。……単純素朴で、無垢で、どこか間が抜けていて、馬鹿正直で、そして身もふたもない言い方をすればまさしく「阿呆」。……そんな少年が、シュペッサルトという名の奥深い森のなかで、農夫の両親と女中とともに平和に暮らしている。穏やかな森の暮らしは、しかし他国の軍隊による突然の襲撃によって断ち切られる。時代は三十年戦争(1618–1648年)のさなかにあり、この場所も無慈悲な殺戮と略奪から逃れることはできなかったのである。……》
──訳者あとがき(『ジンプリチシムス』案内)より