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イギリス・ロマン派と英国旅行文化

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イギリス・ロマン派詩人たちはウィリアム・ブレイクを除きほとんどが頻繁に旅をしているが、それは英国で18世紀以来発展してきた旅行文化の中で、旅に詩的インスピレーションを求めた行動といえる。本書ではまず英国の旅行文化とその研究について考え、この文化的な流れの中でワーズワス、コールリッジ、キーツら詩人たちの実際の旅のいくつかを取り上げて、その実情を検分している。
 まず英国の観光地としてスコットランドと一、二を争う湖水地方に関し、18世紀以来の旅行文化の発展の中で書かれた旅行記やガイドブックを概観した後、19世紀初頭に入って詩人ワーズワスが書いた「湖水地方案内」を詳細に検討している。次いで湖水地方を離れ、ワーズワスにも影響を与えた18世紀の「ピクチャレスク・ビューティー」論の提唱者、ウィリアム・ギルピンが書いた南ウェールズの実践的旅行記、『ワイ川、および南ウェールズ観察紀行』の内のワイ川下りの部分を取り上げて検分、紹介している。
 次いでワーズワスとコールリッジが湖水地方に落ち着く前にブリストルで出会い、サマーセットはじめウェスト・カントリーに滞在した時期を評伝的に取り上げ、文化史的な分水嶺となった『リリカル・バラッズ』出版と創作の経緯、そしてその創作場所に関して詳細に検分している。この数年間の最後はワーズワスの妹を含めた三人の、18世紀大詰めのドイツ旅行につながり、フランス革命期末期、ナポレオン戦争下での英国人のヨーロッパ大陸旅行の様子を彼らの旅から探っている。その中で西暦2000年前後に英米の英文学界で論争のあった「ワーズワス=スパイ説」の顛末も取り上げている。
 最終の第8章ではイギリス・ロマン派の若年世代の中でも最も若いジョン・キーツが夭折の3年前に経験した1818年のスコットランド旅行に関して、主に彼の書簡集をもとにして旅行記を組み立てている。これは著者が5年前に出版した『スコットランド、一八〇三年』(春風社、2017年)の、コールリッジのスコットランド一人旅を扱った第2章と同じように、文人自身が書いていない紀行文を当該文人の視点で、現代の観点も織り込んで構成する新たな試みである。
 以上の研究に関連して、著者は英国の関連現地を自ら自動車を運転して巡り、実地検分をし、」写真を撮影している。これらの成果が著者の手作りの地図とともに添付されている。
 本書はイギリス・ロマン派文学研究を英国旅行文化と結びつける新たな試みと言えよう。
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