南方熊楠(1867~1941)は博物学・民俗学・植物学における近代日本の先駆者的な研究者です。十数年にわたってアメリカ、イギリスを舞台に研究生活を送り、人文・自然科学にこだわらず森羅万象あらゆるものを記録するスタイルで研究を続けました。帰国後もイギリスの科学雑誌『ネイチャー』や『ノーツ・アンド・クエリーズ』に投稿を続け、また柳田国男らとともに神社合祀反対運動・自然保護活動に力を注いだほか、後に中村元や鶴見和子らに「南方マンダラ」と呼ばれた熊楠思想は独特な魅力にあふれ、熊楠を研究する人々は現在も増え続けています。
『熊楠研究』は熊楠に関係する未発表の論考を収める年1号発行の研究書で、熊楠研究の分野において最も権威のあるシリーズとして高く評価されています。
本、第10号は『熊楠研究』第二期のはじまりの号です。
2015年夏、南方熊楠研究会が南方熊楠顕彰会の一機関として発足し、2016年に『熊楠研究』の第二期をスタートさせることになりました。
〈第10号 2016年版 特長〉
★特集1「神社合祀反対運動再考」
熊楠の神社合祀反対運動について、鶴見和子氏は1978年に「エコロジーの立場に立つ公害反対」として評価しましたが、2015年、これを正面から問い直すシンポジウムが行われました。登壇者は3人。これまでも『熊楠研究』誌で熊楠の神社合祀反対運動をめぐり論争を展開してきた武内氏、原田氏。そして1920年創建の明治神宮をめぐる近年の共同研究プロジェクトの中心人物である今泉氏。コーディネーターは畔上氏、コメンテーターは田村氏。時間をオーバーして熱を帯びた議論の後、それぞれが論文としてまとめなおしたものを掲載します。
畔上直樹「特集にあたって」
武内善信「神社合祀反対運動研究の現状と問題点 ―「エコロジー」を中心に―」
原田健一「神社合祀と神社合祀反対の間にあるもの ―熊楠研究の問題点―」
今泉宜子「「鎮守の森」をめぐる顕彰と検証 ―明治神宮史研究のフィールドから―」
田村義也「シンポジウム・コメント」
★特集2「英文論考研究の新展開」
2015年、「南方熊楠 英文論考研究の新展開」と題してシンポジウムが行われました。熊楠が投稿した『ネイチャー』『N & Q』の翻訳出版が2005年と2014年に行われ、熊楠の学術論考執筆が英語で始まった様子が明らかになってきました。そこでシンポジウムでは、熊楠の論考執筆の方法論、有効性と限界、民俗学の出発点と日本への移入、について報告されました。
嶋本隆光「長編英語論文に基づく南方熊楠の学的方法論の検討 ―いわゆる「事の学」の解明に向けて―」
菊池 暁「『郷土研究』と甲寅叢書 ―南方英文論考と日本の民俗学―」
志村真幸「南方熊楠の『ノーツ・アンド・クエリーズ』誌への投稿(二) ― 一九一六…