割れ甕の水琴 記憶のたどり道

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商品説明
 なによりも読みやすい文章が気持ちよい。すらすらと読みすすむなかで、何かを考えさせられている自分に気付く。そういうエッセイ風の短文をまとめたものである。
 著者の幼少期から成人に至る生きざまが、特に父親との深いかかわりのなかで、前向きで、知的な生活を赤裸裸につづっているのは印象的である。著者はそういう父親の存在から抜け出せない存在ととらえているが、結構独立的で、父親の亡きあとは「父のマネごと」と父親を恋しながら頑張っている姿が文面でうかがい知れ、読後はさわやかである。
 著者は大学で生物学を専攻したもようで、随所に「生物学的」な知識が散りばめられていて、それがもうひとつの文を支える要素になっている。それも表面にでかでか出るのではなく、さりげなく生活の中に取り入れているのは著者の妙手か。読み終わってみると、自然の中の人間の存在のありようを考えさせ気付かされる。著者としては、もっと深く植物や野鳥の活をしたかったのではないかと想像してみるが、そうならないように抑えたのだろう。それかどうか、著者のプロフィールには「生物学科」の専攻名が記されていない。生物学はさりげなく、の著者の意図が見え隠れするのだ。
 もうひとつ。著者の別の文章に、父親の告別式のひとこまをつづったのがある。それによると父親の死期を予測し、告別式でも自然体だった著者が、名前も知らない白髪の「おばあちゃん」が焼香に見えたとき、父との別れを惜しむ独りごとを遺影に向って語りかけたとき、耐えきれなくなって号泣したことがしたためられていた。あとで兄から四十にもなって、と言われるが、この気持ちは兄とてわかるまいと、無言だったことも書き残されているが、今回は欠如されている。著者の「楽しく、さわやか」の意図が貫かれているを垣間見える。読後感を寄せてくれているK・Yさんがそのことに触れ、「父上が亡くなっても寂しくなかった?なかったよね。父のかわりに再生した自分があるから」と寄せられているのも、深い意味づけがありそうだが、著者はどう受け止めたか。
 最後の一文『宿題』はその極め付きだろう。棟梁(大工頭)との微妙で深いやりとりの中で、古家の使用期限と著者の「生きる」をてんびんにかけながら、哲学的な会話の中から生きるを考えさせ、かつ前向きに生きようとする著者を垣間見えて感動させられる。
 この文集は、すらすらと気持ちよく読める。それは著者の意図するところでもあろうが、その中に隠されている深い意味合いを、どのように、どのくらい受け止めるかは読者に任されているようだ。
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