『フィールドワークにおける臨界調査法』
――定量的研究(質問紙法)一辺倒の現代ビジネス・スクールに問いかける、文化史的価値をもつ一冊
かつてマサチューセッツ工科大学(MIT)スローン・スクールを中心に展開された定性的研究の拠点。エドガー・H・シャイン教授の他界、そしてジョン・ヴァン=マーネン教授の引退を経て、MITをはじめ全米のビジネス・スクールからは定性的研究を深く学ぶ場が失われつつあります。今日、アカデミズムの世界は質問紙法に代表される定量的研究の一辺倒へと傾斜しています。
こうした「方法論の単一化」は、ビジネス・スクールに限った現象ではありません。心理学においては精神分析の講座が姿を消して実験心理学偏重となり、経済学においてもマルクス経済学の講座が縮小して新古典派経済学一辺倒へと変容してきました。効率性や再現性、数値化を重視するあまり、人間社会の複雑な実態や文脈を深く掘り下げて探求する学問の場が追いやられているのが、現代のアカデミアが直面する現実です。
このような状況下において、SAGE Publicationsの「質的(定性的)研究手法シリーズ」から、シャイン先生の代名詞でもある「クリニカル・メソッド(臨界調査法)」の原著を日本語訳として刊行することは、単なる学術書の翻訳を超えた極めて大きな文化史的価値を有しています。
本書で提唱される「臨界調査法(クリニカル・メソッド)」とは、研究者が単なる「客観的な観察者(部外者)」にとどまるのではなく、クライアントの課題解決を支援する「コンサルタント」「内部協力者」としての立場から現場に関与し、その対話とプロセスを通じて真の知見(実践知)を抽出する革新的な定性的研究手法です。権力の中枢や組織の「舞台裏」にアプローチし、「なぜその行動が生じるのか」という深層のメカニズムを解明するその手法は、数値やアンケートだけでは決して捉えきれない「組織のリアル」を鮮やかに浮き彫りにします。
定量的研究の限界を感じている研究者、現場のリアルな課題に向き合う実務家、そして組織のダイナミクスや人間心理をより深く理解したいすべての人へ。多様な研究アプローチの豊かさを取り戻し、真の「知」の創出へと導く必読の書です。