《戦時下の絵日誌》は、画家・佐藤多持(1919~2004)が、昭和18~24(1943~49)年の日常を水墨と淡彩で色紙に描いた全146枚の絵日誌で、戦中戦後の立川・国分寺周辺の貴重な記録として関心が寄せられています。昭和50(1975)年にたましん本店で一部が初公開展示されると、朝日新聞多摩版で報道され大きな反響を呼びました。
佐藤多持は東京・国分寺に生まれ、幼少より武蔵野の自然と仏教美術に親しみ、画家を志して東京美術学校(現・東京藝術大学)日本画科に進学します。太平洋戦争の戦況悪化により昭和16年に繰上げ卒業して翌年応召するも、演習中のけがにより除隊。間もなく生家に戻ると、立川の昭和第一工業学校(現・昭和第一学園高等学校)に職を得て、昭和18年1月から教壇に立ちました。《戦時下の絵日誌》はその時代に描かれます。
昭和18年1月20日、鳳翔号の命名式風景に始まり、職員室の花瓶の花、授業風景、買い出し、配給、砂川の民家の屋根が爆破される瞬間、横浜が空爆される光景、八王子大空襲、玉音放送をきく4人の男、そして昭和24年6月10日の国鉄ストの日、新生日本の面影が描かれ、未来が暗示されます。
佐藤が「いつ死ぬか判らぬ思いで画いた」と語るように、この絵日誌は、連日、24時間、生命の危険にさらされていた一人の学校教師が、寸暇を惜しんで身辺の事象を即写した貴重なドキュメントであると同時に、佐藤の青春、あるいは戦争世代の青春の縮図とも言える熱量を持っています。若く多感な時期のみずみずしい情感とたくましい行動、何でも描いてやろうという気力、そして、戦時下の恐怖の合間に一緒に生きる小犬を見るとき、一輪の花を見るとき……奇妙な静かさとともに描かれる生命力に満ちた世界に、私たちは強烈な「戦争反対」の訴えを感じるのです。
本書は《戦時下の絵日誌》全146枚を収録した『戦時下の絵日誌─ある美術教師の青春─』(1985年、けやき出版)に一部加筆・修正を加えた新装版です。