本書は、1994年生まれ東京を拠点に活動する写真家・中野泰輔の、第5回ふげん社写真賞グランプリ受賞作です。
本作は、2000年にハッテン場の公園で発生した「ゲイ狩り」の殺人事件の犯人が、自身と同姓同名であったことを発端に制作されました。ゲイ当事者である中野は、ストレートの男性がゲイの男性を手にかけたその事件を耳にしたとき、殺された男性の亡霊が今もその公園で男を物色して彷徨い続けているイメージが脳裏に浮かびました。そこから中野は、カメラを携えた霊媒師となって、地縛霊となった男の魂を解放していく「クエスト」を始めることになりました。
事件現場を歩きつつリサーチを重ねながら、墓石の不法投棄場や江戸の石切場を撮影したり、ストレート男性の身体をストロボを焚いて撮影していく中で、現実と想像、生と死、自己と他者、ストレートとゲイなど、あらゆる境界線が曖昧になっていく感覚があったと中野は言います。その結果生まれたイメージ群は、昼と夜の間に現れる、いわゆる「逢魔時」の紫色のトーンで包まれています。
人間の欲望が渦巻くある一つの出来事を起点に始まった中野の「旅」は、世界を分かりやすくカテゴライズしようとするものに抗い、不確定な揺らぎある境界線上を歩くことで、豊穣なイメージの連なりを生み出しました。それは肉体という入れ物に欲望や感情が詰まった人間という得体の知れない存在を、写真を通して表現しようと試みるものでもあります。
台湾を代表するデザイナーである聶永真(アーロン・ニエ)を迎え、その人々の欲望を巡る旅路が248ページの実験的な書物へと昇華しました。
*タイトルは、ラテン語の回文「In girum imus nocte et consumimur igni」(夜 円を描き続け やがて燃え尽くされる)を英訳したものです。