「豊かさ」とは、いったい何だろう。
52歳で会社を辞め、退職金の一千万円で、フィリピンの小さな島・カオハガン島を買った著者の崎山克彦。そこには、水道も電気もなく、現金もほとんど使われていない、自然と深く結びついた暮らしがありました。
魚や貝を海から採り、島の草木を知り、家や舟を自分たちでつくり、家族や親戚、島の人々が助け合って生きる。日本の何十分の一ともいえる収入でありながら、島民たちは「しあわせだ」と笑う。そんな彼らとの30年以上にわたる日々のなかで、著者は「豊かさ」の意味を見つめ直していきます。
教育や医療を整え、島民が収入を得られる仕組みとして「カオハガン・ハウス」をつくり、さらに珊瑚礁を守る活動にも取り組む。一方で、外から何かを与えるだけではなく、島民自身が自分たちの暮らしに誇りを持ち、自然とともに生きる未来を選べることを大切にしてきました。
そしていま、崎山から島の未来を託されたのは、島民と家族になり、島に暮らす二人の女性、杉浦佑子とエラミル嘉恵。二人の視点から描かれる現在のカオハガン島には、変わりゆく暮らしのなかで、これまで大切にされてきたものを次の世代へ伝えていこうとする姿があります。
「何もない」からこそ見えてくる、人とのつながり、自然の恵み、今を生きることの豊かさ。
ひとりの日本人が偶然出会った小さな島。その出会いから始まった35年の軌跡と、これからの物語を通して、私たち自身の暮らしと「本当の豊かさ」を静かに問いかける一冊です。