長引く腰痛や首肩の痛み、頭痛に悩み、病院では「年齢相応」「異常なし」と言われ、薬やマッサージ、運動を試しても改善しない。そんな人は少なくない。近年、慢性痛の一部は組織の損傷ではなく、痛みを処理する神経系の「設定変化」による「痛覚変調性疼痛」として理解されるようになった。脳や神経には経験によって変わる柔軟さがあり、痛みとの関係は変えていける。
本書では、東京大学医学部附属病院痛みセンターで慢性疼痛の診療と研究に携わる笠原諭医師が、自分でできる新しい痛みの対処法を提案する。その土台は、全国調査などでADHD(注意欠如多動症)の特性と痛みの強さの関連を示してきた研究である。注目するのは、まじめで責任感の強い人ほど陥りやすい「休めない」「抱え込む」「見張りすぎる」といった反応の型、すなわち「脳のクセ」だ。ケネディ大統領や『風と共に去りぬ』の作者マーガレット・ミッチェルの人生の考察も交え、特性は欠点ではなく、使い方次第で強みにもなることを示す。
実践編では、まず毎日の出来事の記録(デイリーログ)と、気持ちや行動の振り返りを通して自分の反応を観察し(リフレクション・ノーツ)、行動を縛る「無意識の思い込み」(アンコンシャス・バイアス)に気づくことから始める。そのうえで、自分のルールを少しずつ破ってみる試みや、痛みを抱えたまま大切にしたいことへ向かう心理療法(ACT)に取り組む流れを、事例と書き込み式のシートに沿って体験できる構成とした。
めざすのは痛みゼロではなく、診療指針も重視する生活の質の向上である。痛みを中心に縮んだ生活を、自分の手に取り戻すための一冊。