本書の目的は、諸外国における多様な教職ルートの構造や実態を明らかにし、国際比較分析を通して、世界的な傾向や各国の特質を解明することにある。その上で、日本の教師教育制度・政策を世界的な傾向の中に位置づけ、その特徴を浮かび上がらせていくことを目指す。本書で分析対象とする国は、アメリカ合衆国、イギリス(以下、イングランドおよびウェールズを指す)、ドイツ、ノルウェー、中国、タイ、オーストラリア、そして日本である。
本書のテーマである「多様な教職ルート」とは、教員になるための道・ルートがいくつにも存在している状況を意味している。多様な教職ルートに対しては、いわゆる「脱専門職化(de-professionalization)」として批判されることが多いが、現実として多様な教職ルートが各国に存在することを踏まえれば、それを批判的な眼差しで捉えるだけでなく、多様な教職ルートがあることの意味そのものを考える必要がある。
また、多様な教職ルートが存在する背景の一つには、教員不足という世界的に共通する問題がある。教職ルートを増やすことは、教員不足への対応方策の一つとされるわけだが、多様な教職ルートの存在は教師教育全体のあり方を問い直すものとなる。その意味で、各国において多様な教職ルートが存在することが、教員不足という量的側面への対応方策にとどまらず、教師教育が抱えている問題を炙り出す可能性を有すると考える。
以上を踏まえて、本書では、多様な教職ルートの存在を単に批判的に分析するのではなく、各国の制度的構造や実態を精緻に解明していく。特に、各国のコンテクスト(歴史的展開や政治経済、社会文化風土等)との関係性を踏まえながら、多様な教職ルートが存在する意味を探っていく。その上で、国際比較分析を通して、各国の共通点と相違点を明らかにする。