寂しい、誰にも頼れない、話し相手がいない。そのような感覚を、皆さんはどのくらいの頻度で抱くでしょうか。あるいは、皆さんの親御さんや、身近な高齢の方はどうでしょうか。
私たちはこうした「孤独」を、つい一時的な気分として片づけがちです。しかし実際には、孤独は心身の健康を蝕む大きな問題です。
私がその影響の大きさを意識するようになったのは、2011年3月11日の東日本大震災でした。
地震、津波、そして福島第一原発事故。未曾有の災害から5か月後の8月、私は初めて福島県に入りました。
当時も今も、多くの人の関心は原発事故や放射線の問題に向かっています。私自身も、住民の方の内部被ばく検査を手伝うなど、医師としてその現場に関わってきました。しかし、現地で診療を続けるなかで次第にはっきりしてきたのは、それとは別次元の健康問題でした。
災害による健康被害は確かにある。けれど、その原因は放射線ではありません。原発事故からの避難で集落がバラバラになり、住民の方は人と人とのつながりを失いました。人が家を失い、仕事を失い、そして何より、人と人とのつながりを失ったこと。地域の支え合いが断ち切られた結果として生じる孤立や孤独が、静かに人の健康をむしばんでいたのです。
やがて私は、これは福島だけの特殊な問題ではないと思うようになりました。震災は、もともと日本社会の中にあった脆さを、極端なかたちで見えるようにしただけではないか。家族は小さくなり、地域のつながりは弱まり、老後を支える関係は細っていく。そうした社会では、災害がなくても人は孤立して孤独に陥ってしまいます。
東日本大震災から15年が経ちました。けれども、あのとき露わになった問題は過去のものになるどころか、私たちはますます、頼れる人がいない社会に向かっているのではないでしょうか。
どうすれば人はつながりを取り戻せるのか。私はこれまで臨床医として患者さんに向き合い、産業医として悩みを抱える会社員の方々の相談に乗ってきました。その経験と、これまで世界中で積み重ねられてきた知見をもとに、この本を書きました。孤独も孤立も、簡単に解決できる問題ではありません。ですが、この本が皆さん自身やその周囲の人を見つめ直すきっかけとなり、少しでも心身の健康を保つ手がかりになればと思っています。