観光文化と時局との関係性のなかに浮かぶ、新たな谷崎文学の批評性。「古典回帰」とされる1930年代以降の谷崎文学の可能性を問う。
「一遍その土地が世間へ知れると、都会の客が我も〳〵と押しかけるやうになり、地元でもいろ〳〵な宣伝や設備をやり出す結果、本来の特色が失はれてしまふことを恐れるから」(谷崎潤一郎「旅のいろいろ」)
関西移住を一つの契機として、「古典回帰」と称される1930年代以降の谷崎潤一郎の作品の数々。そのように形づくられた枠組は、変貌する社会から背を向けて独自の美的世界に耽溺していったという谷崎像を生み出した。
そうしたイメージでくくられやすい戦時下の谷崎のテキストを総体的にとらえながら、時局との不穏な結びつきのもと発展しつつあった当時の日本社会における観光文化を鍵に、新たな谷崎文学の可能性を鮮やかに描く。