ある時、会場に展示された私の描画をはじめて観た方から、過去から現在に至る作品やエッセイ、巡歴など、「吉永邦治」をまるごと紹介した本はないかと聞かれたことがあった。以来、いつの日か「吉永邦治ワールド」としてまとめておきたいとの思いに駆られていった。
この本をつくるにあたって、時を超えて、まず行脚してきたそれぞれの「道」を柱にしてまとめていこうと考えた。寒さと暑さしかない砂漠は「オアシスの道」として。 大草原をふきぬけてくるゲル(パオ)の暮らしの匂いは 「草洋の道」だ。人間の不安をすべて癒やしてくれるひそやかな高山の花が咲いているのは「高原の道」。南海の彼方から渡ってくるアプサラスの香は「海洋の道」に。人々に安らぎ、恵み、希望をもたらそうとした飛天が翔舞するのは「シルクの道」とした。
私の「創造する情熱」を今も育みつづけてくれる根源は、これまで行脚してきたそれぞれの「道」で悠久を生きる民から与えられた「魂」であったろう──。