1980年から現在も活動を続けるUKアナーコ・パンクのカルト・バンド、Rudimentary Peniのギター・ボーカルであり、近年はアウトサイダー・アートのシーンでも評価著しい画家ニック・ブリンコによる、1995年発表のイラスト入り半自伝的小説。
80年代初頭のロンドンのパンク・シーン、精神病、抑鬱、催眠、夢、イングランドの暗い歴史、生と死、幻視、ラヴクラフトの影響などを荒々しく混交させながら、精神科医の日記調で語られる、唯一無二のサイキック・アナーコ・パンク・ホラー。
訳者あとがきとして、アナーコ・パンクおよびRudimentary Peni概史を掲載。
1979年11月20日、18歳の青年ナットは自ら両手首を切り、病院へ運び込まれた。彼を担当することになった精神科医ロドニー・H・デュエラーは、ナットを支配する破滅的な感情の原因を探るため、さまざまな精神療法を試み、抑圧された幼少期を追体験することでトラウマを克服する「原初療法」を行うことを決意する。死の願望とともに生きるナットは、やがてパンク・バンドを結成し、ロンドンのスクワット、アナーキー・センターでライブを行うようになる。ナットの治療を続けるデュエラー医師がその先に見たものとは……。
【本書へのコメント】
知性で解体され、権威に回収される前の純粋な生き方。概念ではなく、行為や事実からのみ浮き上がるそれをパンクと呼ぶ。治療という名の矯正を拒み、濁流のような世界に流されないように悶え、叫ぶ。他人にとっておぞましくても痛々しくても、ナットはただ生きているだけのことだった。深淵を黒く照らすパンクな幻想文学に飛び込む。
―平山悠(『ナース・ウィズ・ウーンド評伝』著者)
精神科医の記録として始まるこの小説は、やがて叫びを意味へ、欲望を欠如へと還元しようとする言語そのものを内側から破壊し始める。
ニック・ブリンコは、Rudimentary Peniの名盤『Cacophony』で築き上げた世界を言語の地平へと移行させることで、読書そのものを痛みを伴う事件へと変質させる。
―馬場裕介(Dreadeye, Socio La Difekta)
Rudimentary Peniをはじめて聴いたのはライブ盤で、全てに「否」を叩きつけ、痙攣し叫び続けるニック・ブリンコのボーカルに得体の知れない凄みを感じた。そうそれはシド・バレットやジャンデック、角谷美知夫らと同じ、拒絶と疎外の音楽、拒絶と疎外のハードコア・パンクだ。世界に対する呪詛で書かれたかのようなこの『原初の叫びを上げるもの』を読んで、改めてその事を思い出した。
―Terroreye (Kaltbruching Acideath)