黒十字サナトリウムの患者は、誰しも自分を吸血鬼だと思いこんでいる。
梶原教授は、ある朝自分が狂人であることに気づくと、自分が狂人であることを知る唯一の人間を殺害する。自殺するために大陸へと渡る教授の目的地は、かつて傷を負った日露戦争の戦場の原野であった。満蒙の枯野をさすらう教授は、やがて黒十字療養所にたどり着く。
療養所には、美少女人形のような看護婦や、肺を患う青年、双子の妹を守るために母親と医師を殺害した東欧の若者などが暮らしていた。
復活祭の日、春の夜明けにむかって説き明かされていく、療養所の秘密とは――。
「救いの神がいるのか私は知らない。私は天国に居ないのだから。地獄にも落ちていないから、裁きの神がいるのかもわからない。でも神の法からは逃れられない。私が吸血鬼として甦っているのだから」
第9回日本SF新人賞受賞、中里友香のデビュー作。2008年刊行以来、長らく絶版・入手困難となっていたゴシック幻想奇譚が、18年ぶりに完全復刻。
新装版あとがき付き。角背ハードカバー糸かがり綴じ。