リップグリップ・倉田シウマイの新書探検ナビ

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No.3 フィクションをリアルへと開く扉

新書大好き芸人のリップグリップ・倉田シウマイさんによる、新書好きによる新書好きのための新書探検ナビ。新書を通して、新たな知的好奇心の扉を開いていく連載記事です。第3回のタイトルは、「フィクションをリアルへと開く扉」。湊かなえさんの『暁星』(双葉社)のテーマである「フィクションを通じて現実で起こった問題について知ること」について、櫻井義秀さんの『統一教会』(中央公論新社/中公新書)を通して読み解いていきます。

湊かなえ『暁星』は宗教に家庭を壊された宗教二世の苦しみを描いた小説です。新興宗教に深く関わっているとされる文部科学大臣を刺殺した男の手記と、現場に居合わせた女性作家が事件について書いた小説で構成されています。ノンフィクションとフィクションが絡み合い、何が真相なのか気になってぐいぐいと引き込まれる作品です。

新興宗教に関与する政治家の殺害事件というと、山上徹也による安倍元首相の銃殺事件が思い浮かぶのではないでしょうか。本作は山上の事件を想起させるシーンで始まるものの、全く別の物語が紡がれます。

山上の犯行動機は統一教会(世界平和統一家庭連合)への恨みでした。対して、本作に登場する新興宗教は湊かなえが創作した「世界博愛和光連合(通称・愛光教会)」です。愛光教会は言葉や文章を重んじる宗教組織で、「桜柳賞」という日本一権威を持つとされる文学賞に影響力があります。

また、愛光教会は朗読会や書写会などを「おつとめ」と呼んで開催しています。そんな「おつとめ」の中に「かきけし」があります。悩みや病を特別な書体で書くことで消すという儀式です。「かきけし」に使う文字を習得するために信者は高額な教本を購入させられます。

主人公の父は小説家で、桜柳賞を獲れないことを気に病み自殺しました。愛光教会の幹部が父の受賞を阻んでいたのです。さらには、母は難病に罹る弟を治すために「かきけし」を習得しようと愛光教会に入信してしまいます。その際、母が父の遺産を根こそぎ献金したために、主人公と弟は一文無しになります。こうして、主人公は愛光教会に家庭を破壊されたのでした。

愛光教会による暴虐を読者はすんなりと想像することができます。教会の活動論理も、人が非道に走る原因も簡単に理解できます。それによって読者は宗教二世の置かれた悲惨な状況やずたずたにされた心情に集中することができるのです。これこそ湊かなえが愛光教会を創作した理由です。

確かに統一教会や山上徹也の事件をそのまま利用することもできたかもしれません。しかし、事実だからこそどこか他人事のように感じてしまうことがあります。特にニュースで大々的に報じられた事件であればあるほど、画面の向こうの出来事だと思えてきます。愛光教会という架空の新興宗教が引き起こした悲劇が完全にフィクションだからこそ、登場人物たちの感情をリアルだと感じることができるのです。

ここで忘れてはいけないのが、愛光教会と統一教会が全く違う新興宗教であることです。では、統一教会とはどのような宗教なのでしょうか。

櫻井義秀『統一教会 - 性・カネ・恨(ハン)から実像に迫る』(中公新書)は、統一協会を歴史的背景、教義、組織構造、法的観点などから多角的に論じた新書です。以下で本書の内容を紹介します。

統一教会の教義の中心は創設者の文鮮明が再臨したメシア(救世主)であることです。まず、聖書の創世記第三章で語られるアダムとエバの楽園追放が大天使ルシファーの堕落と紐づけられます。エバとルシファーが不倫関係にあり、その後エバとアダムが結ばれたため、人類はサタンの血統を継承しているというのが統一教会の原罪論です。そして、メシアである文鮮明が女性信徒と「霊體交換(血分け)」と呼ばれる性交を行い、その女性信徒が男性信徒と性交することで、血統をサタンから神へと転換するというのです。

文鮮明がメシアである根拠は生まれ育った韓国という国の歴史に求められます。大日本帝国の圧政をユダヤ人がエジプトやローマで受けた迫害になぞらえて、韓国民族を第三イスラエル選民とします。そのため統一教会には日本に対する恨みの心情が根底に存在します。日本において信者に霊感商法を用いた過酷な献金を課したのは、日本が韓国に贖罪すべきという考えからです。

統一教会の最終的救済は「祝福」です。合同結婚式に参加し、文鮮明の聖家族の一員になることを意味します。結婚式に続く儀式では、棒で腰を打ち合うことや、決められた体位での性交などを行います。結婚相手は教会によって決められ、国際合同結婚によって日本から渡韓した女性信者の数は約7000人とされます。

統一教会
統一教会

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そんな統一教会が日本での宣教に成功したのは笹川良一や岸信介の力添えがあったからでした。1960年代、労働運動や学生運動に広がる左翼思想に手を焼いていた岸信介は、反共産主義的な活動に統一教会を活用しました。ここから日本の右翼政治家と統一教会の関係性は続いていくことになります。統一教会の「性」を核心とした思想は、右翼政治家の家父長制的家族観と相性がよかったのです。

統一教会は多数の事業体が集まったコングロマリット宗教です。東京高裁の解散命令によって宗教法人格が失われたといえども、別の名前や別の事業として組織は存続することができます。規模感だけから言えば、統一教会は世界宗教に近づいています。統一教会の問題はまだまだ続くのです。

『暁星』を読んで宗教二世の苦しみを知ったならば、ぜひ『統一教会』も手に取ってみてください。フィクションをリアルへと開くのは読者にしかできません。「この作品はフィクションである」という一文を取り去ることができるのは読者である貴方なのです。

2026-07-15

PROFILE

倉田シウマイ

(リップグリップ)

マセキ芸能社のお笑い芸人。
京都大学出身。
2015年10月に相方の岩永とリップグリップを結成。
新書を紹介する個人YouTubeチャンネル「新書といっしょ」を運営するかたわら、お笑いライブや大学の講義で新書の魅力を広めている。

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